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伊福部昭 映画音楽の世界 ディスク2

2枚組みCDの2枚目の紹介。前回の記事は
http://d.hatena.ne.jp/jinkenvip/20070308/1173355707

曲目解説(2枚目)

史劇

  1. 釈迦・メインタイトル……合唱曲。三隅研次監督、大映が製作した超大作で、昨年やっとDVDが発売された。バレエ「人間釈迦」とこの映画の音楽を素材に、浄土宗の委嘱で「交響頌偈・釈迦」が作曲されたが、そちらでも同じ合唱が聴ける。なお、釈迦初演と一緒に演奏された小松一彦指揮「SF交響ファンタジー第1番」は、とてつもない演奏で素晴らしい。SF交響第1番は同じ東京交響楽団が初演をやったが、同じ楽団とは思えない演奏である。
  2. わんぱく王子の大蛇退治・メインタイトル……映画の解説は以前書いた。ここでは映画の冒頭の曲と、メインタイトルが続けて演奏される。交響組曲版と同じく、低音の迫力がすごい曲だ。劇中でも何度か使われている。
  3. わんぱく王子の大蛇退治・岩戸神楽……アメノウズメの舞と呼んだほうが分かりやすいか。さすがに音質はよくない。しかし、それによって神々しさが一層感じられるから不思議だ。テンポは結構速い。映像があるとより一層感動できる。神の力強い踊り!
  4. 日本誕生・征西……日本武尊の一行が熊襲征伐に向かう途中の曲。映画については以前書いた。伊福部さんは音楽の時代考証も行ったという。
  5. 日本誕生・エンディング……合唱曲。日本武尊が白鳥(しらとり)になり、天変地異が悪者たちを殺していく。この曲は天変地異が鎮まり、大和の人々が白鳥を追いかけるシーンの曲。ここで映画は終わる。

文芸

  1. 鬼火・メインタイトル……おどろおどろしい曲。1956年の映画で、加東大介主演。三角関係で愛憎渦巻くサスペンスらしい。
  2. 鬼火・夢……ピアノがメインの曲。優しい感じだ。
  3. 憎いもの・メインタイトル……丸山誠治監督、藤原釜足藤原鎌足ではない、って知ってるかそのくらい)主演。東北の雑貨商の話らしいが、よく分からない。これもおどろおどろしい曲。短い映画で、この映画でも伊福部さんと監督との衝突があったという。
  4. 下町(ダウンタウン)・メインタイトル……女性コーラスが美しい曲。山田五十鈴三船敏郎主演。戦地から戻らぬ夫を待つ女が他の男と恋に落ちる悲劇という。多分、死んだと思っていたら生きていたとか、そんなところか。
  5. 二人の息子・家族の不和……主演は加山雄三宝田明。この曲について、解説には「失職した父の今後を相談する親子5人」とある。今見ると逆にリアリティがありそうな映画だ。いや、ありすぎて困るかも。
  6. 二人の息子・タイトルテーマ……このCDではタイトルテーマという言葉は、劇中に使われたメインタイトルと同じ曲、という意味を持っている。これは穏やかな曲。

伝記

  1. お吟さま・メインタイトル……千利休の義理の娘・お吟の話。ギターではなくリュートチェンバロらしい。CDの解説では文芸カテゴリだが、伝記の間違いかもしれないのでこちらに。
  2. 親鸞・メインタイトル……合唱曲で、メロディは宇宙大戦争「夜曲」と一部同じ。感動的な曲だ。二部作で、後編では伊福部さんの歌が聴けるらしい。伊福部さんが語るには、宗教映画ではこの仕事が一番充実していたという。どれが「宗教映画」に含まれるかは分からないが、「わんぱく王子」は含まないだろう。「日本誕生」は微妙なところ。
  3. 人間革命・メインタイトル……原作、池田大作。主演、丹波哲郎。なぜ東宝はこんな企画を通してしまったのか。音楽や作曲者に罪はない。名曲であると認めざるをえない。監督と主演がノストラダムスの大予言と同じという点が笑える。ストーリーは、池田大作の伝記ではなく、他の人の伝記らしい。この映画の音楽がCDに収録されるのは初めてらしい。
  4. 人間革命・地獄……解説には「原爆・暴動・病気など、現代の地獄のイメージにつけられた音楽」とあるが、伊福部さんの曲で最も地獄な雰囲気を持った曲は、このCD1枚目の26曲目「ゴジラの恐怖(昭和ゴジラのテーマ)」であろう。また、創価学会の存在自体が日本にとって地獄であろう。この映画は伊福部さんにとって汚点となってしまった。

スペクタクル

  1. 鯨神・オープニング……力強い曲。芥川賞の原作を映画化。多分、実話ではないだろう。明治初期、九州沖に現れた鯨神(少し大きな鯨)を捕ろうとする男たちの話。スペクタクルカテゴリに釈迦や日本誕生がないのは少しおかしい気もする。しかしその2作品は伝記カテゴリでもおかしくない。
  2. 大坂城物語・戦い……タプカーラ第1楽章の最後のほうのメロディと同じ。交響曲まで使い回すあたり、伊福部さんらしくて好きだ。映画は稲垣浩監督、三船敏郎主演。大坂冬の陣の話。なぜかDVDは出ていない。
  3. 大坂城物語・マーチ……かなり遅いテンポだが、「ゴジラvsデストロイア」の「スーパーX3のテーマ」最初のメロディと同じ。1,5倍速にすると、かなり近くなる。この曲がCDに収録されるのは初めてらしい。ちなみにスーパーX3の曲は2番目がGフォースマーチだ。
  4. 奇巌城の冒険・メインタイトル……監督谷口千吉、主演三船敏郎、原作は太宰治走れメロス。舞台はシルクロード。なぜかこれもDVDが出ていない。これを聴くと、SF交響ファンタジーの「奇巌城の冒険」はかなり編曲されていることが分かる。
  5. 奇巌城の冒険・マーチ……「宇宙大怪獣ドゴラ」のドゴラ殲滅作戦マーチと同じ曲だが、かなり速いテンポ。「オスティナート」というCDの解説によると、伊福部さんはドゴラ殲滅作戦マーチは当初、もっと速いテンポのつもりだったらしく、この曲のほうが本来の姿だと思われる。ドゴラのほうが奇巌城の冒険より古い。
  6. 大魔神怒る・大魔神のテーマ……三部作の2作目。ただし三部作といっても話は全く繋がりを持たない。私が子供の時に見たのはこの「怒る」のみだったが、今見ても、印象的な作品である。大魔神は宴会芸や一発芸としても有名で、まあ説明不要だろう。スペクタクルより時代劇カテゴリが相応しい。この曲は一部がフランケンシュタインのテーマだが、3作目でもこの曲だったはず。しかし1作目はかなり違っていて、「わんぱく王子の大蛇退治」出雲の国〜ヤマタノオロチ、「フランケンシュタイン対地底怪獣」バラゴンのテーマ、と同じメロディが使われていた。作曲者が言うには、キリスト教とも仏教とも怪獣とも天照大神とも違うから、こういう曲にしたんだ、とのこと。言うまでもなく荒ぶる神・阿羅羯磨(あらかつま)様である。地震、雷、火事、親父、という場合の親父は、大魔神みたいなものだ。

人間ドラマ

  1. 女中ッ子・メインテーマ……メインタイトルだと思われるが、なぜか解説には「メインテーマ」とある。女中の少女がその家の人々と仲良くなるホームドラマらしく、伊福部さんは自分がこういう映画をやるのは珍しいと言っている。
  2. ビルマの竪琴・メインテーマ……毎日映画コンクール音楽賞、ブルーリボン音楽賞を受賞。「銀嶺の果て」「ゴジラ」でも使われた、伊福部映画音楽を代表する一曲。泣ける。伊福部昭音楽祭でも演奏された。合唱曲「オホーツクの海」にもなった。一体どういう頭をしていれば、これほどの名曲を生み出せるのだろうか。日本で千年に一度の天才音楽家、と言って当たらずと言えども遠からず。「オホーツクの海」は聴いていないので分からないが、「銀嶺の果て」「ゴジラ」よりもこちらのほうが、曲自体のレベルは高い。あとは映像だが、映像もかなりよい。泣ける。
  3. 無法松の一生・メインタイトル……有名なのは稲垣浩監督、三船敏郎主演の東宝映画。そちらの音楽は團伊玖磨。これは三隅研次監督、勝新太郎主演の大映映画。座頭市のトリオだ。私は稲垣版しか見ていないが、どうもこの監督とは合わないようである。いいけれど、それほどでもないと思った。三隅版はもっと合わないかもしれないが、音楽が伊福部さんだから、一度くらい見てみたい。
  4. 狼よ落日を斬れ・メインタイトル……三隅研次監督、幕末の凄腕剣士の話。悲しげな金管の曲。
  5. 狼よ落日を斬れ・西南戦争
  6. サンダカン八番娼館 望郷・メインタイトル……熊井啓監督。明治末期、ボルネオ島サンダカンに売られた娼婦の話。この曲はメインタイトルなのに短い。
  7. サンダカン八番娼館 望郷・回想……この映画の見せ場で、ずっと音楽が流れるようにと、約5分に編集されたシーン。当然、これは約5分の曲。

晩年の作品

  1. 土俗の乱声・タイトルテーマ……「キングコング対ゴジラ」コング輸送作戦マーチのメロディがメインになっている。解説によると「大陸文化の渡来を追及する学術長編ドキュメンタリー映画」であるから、見る機会はなさそうだ。
  2. ゴジラvsキングギドラキングギドラのテーマ……キングギドラのテーマとUFOのテーマ(メインタイトル)が交互に二度ずつ流れる。この映画のエンディング曲「ゴジラは死なず」(平成ゴジラのテーマ)あるいは「ゴジラvsデストロイア」エンディング曲(SF交響ファンタジー第1番の編曲)のどちらかを収録してほしかったところだが、私は持っているから別にいいか。伊福部さん曰く「今でもモーツァルトベートーヴェンだ、なんて騒いでいるわけですから、10年やそこらで古くなったりしたんではどうしようもないという想いも自分の中にはあるんです」ああ、伊福部さんの音楽も、ゴジラはじめ日本映画も、永遠に色褪せることはないでしょう!
  3. ゴジラvsメカゴジラ・メインタイトル……平成メカゴジラのテーマ。「つばめを動かす人たち」という鉄道記録映画で使われた曲がオリジナルらしい。私は持っているが、「Gフォースマーチ」も収録してほしいところか。そういえばこのCD、「聖なる泉」を全く収録していない。
  4. ゴジラvsデストロイア・レクイエム……ビルマの竪琴同様、悲しい名曲。こちらのほうが悲惨さは少なく、コーラスがキリスト教っぽいかもしれない(いや、違うか)。ゴジラが死ぬシーンは全人類必見。伊福部さんが語るには「ゴジラの誕生を手伝ったわけですし、これこそ最後の作品で次に依頼が来ることはないはずだから、それではやりましょう、と」まさにこれこそ最後の作品で、ゴジラ最後の作品であると同時に日本映画最後の作品といった感じである。

コメント

 「自己に忠実であれば、必然的に作曲家は民族的であること以外に、ありようはない」「作品は民族の特殊性を通過して、共通の人間性に至達しなければならない」伊福部さんのこの言葉は、純粋音楽ではない効用音楽においても、何ら違いはないように思う。それであればこそ、「釈迦」「SF交響ファンタジー」「わんぱく王子の大蛇退治」のような純粋音楽への再編もありえたのであり、また洋の東西を問わずファンがいるのである。
 「静かなる決闘」以外の黒澤映画は例外として、日本映画の代表的なものは、かなりの数が伊福部さんの手によるもので、手掛けたことのない映画のジャンルは無いほどである。ただし、特撮映画でもある戦争映画はおそらく一つもない。伊福部さんが戦争嫌いというのも大きいと思うが、もう一つ、音楽によっていつもの特撮映画の雰囲気になったら困るから、だろう。しかし怪獣大戦争マーチなどのメロディは、元々は軍楽だった。伊福部音楽の戦争映画は、あえて挙げればビルマの竪琴と、原爆の子、アナタハンなどだろう。さらに言えばゴジラ地球防衛軍宇宙大戦争、そして海底軍艦などもそうかもしれない。
 本多猪四郎黒澤明円谷英二三船敏郎志村喬、と映画人の名前を挙げていけばきりがないが、彼らは皆、伊福部さんとどこかで繋がっている。「銀嶺の果て」から「ゴジラvsデストロイア」まで、約50年間、SF特撮、スペクタクル、時代劇、文芸、社会派、人間ドラマと、多くの映画の音楽を書いてきた伊福部さん。彼がもういないというだけで、どうしてこんなに悲しいのだろう。映画館で見た映画はわずかだが、思い出の中でいつも鳴っている曲たち。ゴジラが、モスラが、メカゴジラが、自衛隊が、まるで目の前にいるかのように。ゴジラのレクイエムは伊福部昭の、そして日本映画のレクイエムでもあると思う。美しいコーラスだ。最後は未収録曲、ゴジラvsデストロイア・エンディングのゴジラのテーマを聴きながら筆を置く。