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小室直樹の「痛快!憲法学」を読む 第8章、第9章前半

近代民主主義では「法の前の平等」を何よりも尊重します。(151P)

法の前の平等、あるいは法の下の平等とは、要するに機会の平等です。法律は何人も差別しないということなのです。

カエサル、ナポレオン、ヒットラー

 それはさておき、デモクラシー、憲法にとって最大の敵とは何でしょうか。その答えは、意外にも民衆なのです。デモクラシーを独裁政治に変えてしまうのは、カエサル、ナポレオン、ヒットラーといった天才たちではなく、彼らを熱狂的に支持する民衆のほうなのです。なにしろ、天才でも何でもないナポレオン3世が独裁者になってしまったくらいです。独裁者の出現は、なかなか阻止できない。そこでアメリカの大統領選挙は、非常に複雑な仕組みになっているそうです。日本に首相公選制を導入するとしても、独裁者が出てこないように大変な工夫が必要となるでしょう。もちろん、日本国民がデモクラシーより独裁政治を望むのならば別ですが。

独裁者が出てくれば、君の生活は今よりよくなる。独裁者が出なければ、日本経済はこのまま駄目になるかもしれない。はたして、どっちのほうがいいか分からないよ。
<シマジ 先生って、ずいぶん意地悪なんですね!>(163P)

いやいや、ぶっちゃけ独裁政治でもいいかな、なんて思えてくる。しかし陛下はそうはお考えにならないはずだから、デモクラットのままでいよう。いかなる全体主義も許してはならないのだ。

平和主義者が戦争を作る

というのが第9章のタイトルです。中には中国が攻めてくるのを待っているんじゃないかという感じのサヨクもいますが、ここでいう平和主義者とは、心から平和を望む人のことです。いよいよ憲法論議の定番、第9条の話。この本では第2項は無視されています。なぜなら、軍隊は持たないなんて言ったって、現に自衛隊があるわけですし、土台無理な話。あの社会党ですら、与党になった途端に確か自衛隊を認めてしまいました(違ってたらすみません)。では第1項は?

……国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。(日本国憲法第9条第1項)

この条文を無くしたら日本が軍国主義に逆戻りする、と主張する人たちがいます。それが正しいかどうかは置いておくとして、このような条文を含んだ憲法は、実は日本だけのものではありません。世界中に似た憲法はたくさんあります。

西(修=にし・おさむ)氏の調査によれば、何らかの平和主義条項が憲法にある国は1998年時点で、なんと124カ国もある。……
<シマジ 世界の3分の2の国が平和憲法を持っている!……>

日本の憲法は世界に誇るべき平和憲法、などという主張はおかしいのです。美しい国じゃないけれど、美しい憲法なんて言ったところで、最もありふれた憲法なんじゃありませんか? 確かに、「戦争と……武力の行使は……これを放棄する」という内容の憲法は、3分の2ではなくイタリア、フィリピンなど数カ国にしかないようです。しかし、それでも他の国にもあるのだし、それ以外の内容も含めれば、124カ国が平和憲法を持っているわけです。

憲法第9条第1項のお手本となったのは、1928年に結ばれた「ケロッグ=ブリアン条約」です。(167P)

東京裁判でもお馴染み、ケロッグ・ブリアン条約(パリ・不戦条約)。これは第1次大戦に懲りた世界各国が結んだ条約で、「国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄する」とか何とかいう内容です。東京裁判で揉めたのは、この条約が戦争を違法化したのかということ。さらに言えば、政府・軍隊の個人を戦争開始の罪で裁けるのか、という点です。後者はノー。前者もノー。不戦条約の起草者の一人、ケロッグが言ったことは、

自衛権は関係国の主権下にある領土の防衛だけに限られてはいない。本条約のもとにおいては、自衛権がどんな行為を含むかについては、各国みずから判断する特権を有する……。(菅原裕「東京裁判の正体」P27)

要するに、自衛戦争は合法とした上に、その戦争が自衛かどうかは自国が決めればよいとしたのです。そうしたら、自衛ではない戦争なんて無いに決まっています。つまり全ての戦争は合法であるというわけです。よってパール博士の言うとおりでしょう。

「パリ(註:不戦)条約は法の範囲内には全然入らない。」(田中正明「パール博士の日本無罪論」42P)

とすれば、ケロッグ・ブリアン条約をコピーした日本国憲法第9条も、「法の範囲内には全然入らない」と言えないでしょうか。そもそも全ての戦争を放棄してしまったら、国民の生命、自由、財産はどうやって守ればいいのでしょう。国家の最重要任務は、軍隊と警察による治安の維持です。「平和主義者が戦争を作る」ということについては、次回へ続きます。

日本人のための憲法原論

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