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武士道とは何か・後編〜エリートの倫理

世の中には、素質が非常にすぐれていて、……友人からも信ぜられている善人があるもので、このような人物は、別段学問をしないでも、過ごしてゆけるようであるが……学問も思索もしないために、天下の大乱、人倫の大変、忠孝上の大問題にぶつかると、大きな間違いを引き起こしてしまうことがある。(吉田松陰「講孟箚記(下)」293P)

 そもそも武士道は武士(軍人、兵隊)の倫理であるが、徳川時代儒学の影響を多少受けつつ生まれた(それ以前には明確な武士道は存在しなかった)。武士の倫理であるため、戦場を想定した部分があり、同時に天下泰平の徳川時代の倫理であるため、官吏的な面もあった。特に儒学の影響は官吏的なものであった。
 戦場を想定した結果、武士は覚悟(備え)を重視することになった。死の覚悟と、死ぬ気になれば何でも出来るという精神だ。また、戦争には勝たなければならないのであって、そのための準備が必要とされた。もちろん、精神的な準備だけではない。ここに、危機管理能力を強める結果が生まれた。戦争に限らず、あらゆることへの備えである。


 また、武士は四民(士農工商)の長であり、農工商のように労働していないのに禄を食んでいる。帯刀、名字などの特権もある。これは何故かと言うと、官吏として国家を担うのと同時に、農工商の三民の模範となっているからである。ここに、責任感とエリート意識(ノブレス・オブリージュ)が生まれる。吉田松陰先生は、

私はおろかであるが、聖賢の心を保存してうけつぎ忠孝の志を立て、国威を発展させ外国を滅ぼすことをもって、自分の任務としている。かならずや後の人をして、この私の行為を知ることによって興起させ、七生ののちまで影響を与えたいものだ。(日本の名著31 吉田松陰 177P)

と言っているし、平泉澄先生は、

士とはかかる人物をいふ。腰に剣を佩かずともよい。職業は何であってもよい。真に道義に目覚めて、道によつて国を守らうとする者、しかも義勇の精神により、死して後已むの覚悟ある者、これを士といふのであります。(平泉澄「先哲を仰ぐ」541P)

エリート意識は特権と名誉によって支えられる。社会の人々が彼らのことを尊敬し、また何らかの特権を有している場合が多い。名誉があれば廉恥心もあるのが当たり前で、武士道は恥の文化とも呼ばれた。

恥を知らざる程、恥なるはなし(吉田松陰

今の日本人の破廉恥ぶりには呆れるが、なに、私も人のことは言えません。


 このように、武士道は単なる道徳にとどまらず、正義感と責任感(エリート意識)、危機管理能力などが備わっている。その成立には、八幡太郎義家以来の仏教崇拝、山鹿素行山崎闇斎らの神道徳川幕府が正式採用した朱子学儒学)が混合している。だがこれらが化学反応を起こし、仏教とも儒学とも神道とも全くの別物、完全に新しい思想が生まれたのだ。そして、その完成品は上級武士には見出せない。真にエリート意識を持っていたのは幕末の下級武士(勤王の志士)であった。
 江戸時代に主君の仇を討ったのは赤穂浪士くらいであり、彼らは山鹿素行の弟子であった。その素行の学問を専門とした吉田松陰先生、そして彼の松下村塾から偉大な人物が輩出し、時代はやや下って乃木将軍、さらに昭和天皇、というふうに山鹿素行の武士道は継承されていった。その多くは下級武士か、それ以下の身分の者だった。
 今の日本は幕末と同じか、それ以上の危急の時代である。もし狂瀾を既倒に廻らすことが可能であるとすれば、それは彼らのような武士を育てる以外に道は無い。

武士道の本

物語日本史 平泉澄……平泉澄先生の最高傑作。
先哲を仰ぐ 平泉澄……物語日本史を読んだ後に是非。
吉田松陰留魂録 吉田松陰……松陰先生の遺書。
講孟剳記 吉田松陰……松陰先生の最高傑作。
日本の名著31 吉田松陰(あるいは「講孟余話ほか」)……松陰先生の様々な著作を現代語訳のみ収録。
啓発録 橋本左内……松陰先生と並ぶ天才・橋本景岳の小論文。
話し言葉で読める「西郷南洲翁遺訓」 長尾剛……西郷さん唯一の著作といっていい。
愛国心の教科書 渡辺毅
道徳の教科書 渡辺毅
葉隠入門 三島由紀夫……武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。「葉隠」より。
武士道(日本の魂) 新渡戸稲造……英語で書かれた有名な本。
「武士道」解題 李登輝……上の新渡戸「武士道」の解題。
自分を鍛える56の絶対ルール―『武道初心集』を読む 大道寺友山……武道初心集の分かりやすい現代語訳。

武士の伝記

代表的日本人 内村鑑三
乃木希典―高貴なる明治 岡田幹彦
乃木大将と日本人 スタンレー・ウォシュバン
東郷平八郎―近代日本をおこした明治の気概 岡田幹彦
硫黄島 栗林忠道大将の教訓 小室直樹
たった一人の30年戦争 小野田寛郎
坂本竜馬明治維新の原動力 砂田弘
高杉晋作―幕末をかけぬけた男 浜野卓也
西郷隆盛明治維新の功労者 福田清人
勝海舟―江戸を戦火からすくった 保永貞夫

終わりに

 結局、大したことは書けなかったが、現時点での自分の考えをまとめることができたと思う。士規七則に、

一、人古今に通ぜず、聖賢を師とせずんば、則ち鄙夫(ひふ)のみ。読書尚友は君子の事なり。
一、徳を成し材を達するには、師恩友益多きに居り。故に君子は交遊を慎む。
(中略)
右士規七則、約して三端と為す。曰く、「志を立てて以て万事の源と為す。交を択びて以て仁義の行を輔く。書を読みて以て聖賢の訓をかんがふ」と士まことにここに得ることあらば、亦以て成人と為すべし。

とあるように、古今の聖賢に学び、師友と切磋琢磨するのでなければ、君子にはなれない。
 今、私は物語日本史や松陰先生、西郷さんの著書を紹介することは出来る。しかし、師を紹介することは出来ない。私もまだ師とすべき人物とは出会っていないが、必ず広い皇国のどこかに、松陰先生のような先生がいるはずである。いや、松下村塾記にあるように、自分がいる場所こそ、自分の学ぶべき場所である。師は近くに居るはずなのだ(ここで言う師とは、職業としての教師ではない。松陰先生のように囚人であってもよい)。