夢(★)
6本目「赤富士」
おすすめ度★(5段階)
一言紹介:黒澤明がスピルバーグの協力で作った趣味の映画。黒澤監督の趣味に付き合いたい人だけ見ればいい。
1990年、ワーナー・ブラザース製作。
監督:黒澤明、演出補佐:本多猪四郎、音楽:池辺晋一郎、脚本:黒澤明、提供:スティーヴン・スピルバーグ。
たまには本多猪四郎監督以外の映画も紹介しよう。ということで、久しぶりに黒澤明監督の映画をご紹介。これは最近見た映画です。
「こんな夢を見た」で始まる8本のオムニバス。それぞれの話は全く関係がない。合計約120分。全て、黒澤明が見た夢を元にしているらしい。以下がそれぞれの内容。
- 「日照り雨」……狐の嫁入りを見てしまった。終わり。
- 「桃畑」……これは面白いので内容は伏せておきます。
- 「雪あらし」……吹雪の中でうとうとしてしまった。寝たら死ぬぞ。終わり。
- 「トンネル」……トンネルを抜けたら戦死した部下たちの幽霊と会った。終わり。
- 「鴉(からす)」……ゴッホの絵の中に入った。ゴッホ本人と会った。終わり。
- 「赤富士」……原発事故で日本滅亡。逃げる群衆がゴジラ映画みたい。終わり。
- 「鬼哭(きこく)」……放射能で巨大化したタンポポ、鬼になった人間。マタンゴみたいなもんか。終わり。
- 「水車のある村」……田舎の老人のどうでもいい話。やっせーやっせーやっせーよやさー!終わり。
この映画を映画館で見た人は、さぞかし「騙された!金返せ!」と思ったことでしょう。「影武者」や「乱」と違って、最初から面白くしようという気が感じられない。「影武者」は糞つまらなかった(そもそも、編集する時間がなかったらしい)。「乱」は「影武者」よりはマシだが、あまり面白くなかった。さて、この映画は一体何なのだろう。全く面白くない。最初の二つは「おっ」という感じ。それ以降は「は〜」だ。美術フィルムだと割り切れば、悪くない作品もある。しかし、やはり映画は娯楽でないと。見て面白くない映画を評価するなんて絶対に出来ない。ストーリーらしきストーリーがないのだ。第一、他人の夢の話など、面白いわけがない。富士山が「どかーん」「ぴう〜(ビオランテ降臨と同じ効果音)」というところは、映像としても変。しかも「生きものの記録」と同じで反核のメッセージが伝わってこない。放射能が迫ってくるところは「渚にて」のパクリか? 原発事故は実際、浜岡なんて本当に危ない。東海地震で震度8とか来たらどうなるんだ。1984年にゴジラが襲撃した浜岡原発、東京の風上だよ。「もしも」が怖い。
最後の水車村に笠智衆が出ている。亡くなる3年ほど前だ。声で「笠智衆だな」とはっきり分かる。しかし、彼が語る内容はかなりどうでもいい。笠智衆じゃなかったら、もっと酷いことになっていただろう。
「酔いどれ天使」から「赤ひげ」までのモノクロ、三船&志村、音楽:早坂or佐藤の黒澤映画はどれも面白い。特に、以前紹介した「七人の侍」「生きる」「椿三十郎」がおすすめだ。
黒澤明は若い頃名作をたくさん作ったので、晩年の彼を悪く言う気にはならない。しかし、作品の評価については甘くしない。カラー時代の黒澤明を褒めることは、ジョンレノンの前衛三部作(未完成1、2、ウェディング)を褒めるような話で、逆にその人の評価を下げる気がする。また、晩年の作品が全体の評価を下げているとしたら、残念だし、初めて黒澤映画を見る人は、もっと昔のやつから見てほしい。