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海底軍艦(★★★★)


おすすめ度★★★★(5段階)
一言紹介:帝国海軍の残党が開発した「轟天号」が世界を救う!悠久の大義に生きる神宮司大佐!
1963年、東宝製作。
監督:本多猪四郎特技監督円谷英二、音楽:伊福部昭、脚本:関沢新一
出演:田崎潤(神宮司大佐)、高島忠夫、藤山陽子、藤木悠上原謙、小泉博、佐原健二、小林哲子、平田昭彦、田島義文、天本英世
同時上映:「香港クレージー作戦」(クレージーキャッツ主演)


 ストーリー:土木技師が誘拐される事件が続発。一方、高島・藤木コンビは高島が一目惚れした藤山陽子を追いかけていた。彼女は神宮司大佐の娘で、大佐は戦死したため上原謙の元で育てられた。藤山陽子と上原謙の乗った車を高島・藤木が追いかけていたのだが、その車は何故か海岸へ向かった。何と運転手の平田昭彦はムウ帝国工作員を名乗ったではないか。二人を助けようとする高島・藤木。平田昭彦は海へ逃げた。後日、彼が送ってきたフィルムは、ムウ帝国による全世界に対する宣戦布告であり、神宮司大佐が密かに開発した海底軍艦なるものを渡せという。藤山陽子と上原謙を襲ったのも、海底軍艦の建設基地を探るためだった。父が生きていることに驚く藤山陽子。だが神宮司のかつての上官である上原謙は、何か知っているようだ。国連の緊急会議は、くだらないと一笑に付すが、ムウ帝国はその存在を全人類に示すために、いくつかの都市を壊滅させて見せた。このままでは全世界がムウの植民地となってしまう。だが、人類には海底のムウ帝国を攻撃する方法がない。ムウの科学力を前に、為す術がないのだ。しかし一つだけ希望があった。神宮司大佐の海底軍艦轟天号である!


 高島忠夫藤木悠とくれば、当然「キングコング対ゴジラ」を思い浮かべるが、キンゴジや「モスラ対ゴジラ」のようなコメディ調ではない。しかし、笑えるシーンはいくつかあり、映画のメリハリを生んでいる。藤木悠は本当に面白く、名俳優だ。平田昭彦は珍しく悪役であるが、これがなかなか似合っている。佐原健二マタンゴやモスゴジの如く怪しい役で、これも似合っている。俳優は悪役も演じられるようでないと、イメージが正義漢に固定されて詰まらない。
 小林哲子の演じるムウ女帝は、真っ赤な髪が美しい。皇帝陛下としての威厳があり、一種の萌えキャラとして完成している。見れば分かる。
 しかし何といっても、この映画で轟天号と並んで魅力にあふれているのは田崎潤演じる神宮司大佐だ。東郷平八郎元帥をはじめ数々の軍人役、自衛隊幹部の役をこなしてきた彼だからこその役だ。もし田崎潤以外なら、世界広しと雖も三船敏郎くらいしかいないだろう。でも、やっぱり田崎潤じゃなかったら嫌だ(藤田進は神宮司のイメージではないし)。
 それ以外の田島義文ほか軍人役の人も、動きや喋り方が本物そのままで、カッコいい。エキストラについても、ムウ帝国人は大人数で、さらに伊豆大島の住人がものすごい人数である。


 特撮はもちろん何と言っても轟天号。他にも、丸の内の壊滅やら、最後のムウ壊滅やら、あっと驚くシーンが多い。画としての完成度が高いのが円谷特撮の特徴で、絵画を見ているような気分だ。迫力と美しさがあるから、何度見ても飽きることはない。特にムウ壊滅のシーンは、CGでも再現できないと思える迫力だ。
 「地球防衛軍」「宇宙大戦争」と同じくメカデザインは小松崎茂轟天号は彼の最高傑作、いや日本が生んだ空前絶後のメカだ。これを超えるデザインは未来永劫出ないだろう。特撮班が制作した模型は長さ約5メートルらしい。
 海底軍艦は潜水艦ではない。アメリカの最新鋭潜水艦「レッドサタン号」はムウ潜航艇を追跡して、遂に水圧に負けたのだった。しかし、海底軍艦轟天号」は数千メートル、数万メートルの深海を航行できる、海底の軍艦である(海中ではなく海底)。さらに艦首のドリルで地底を進む。いや、それだけではない、垂直離着陸して大空を進む! 地球上ならどこへでも攻めていける万能戦艦、轟天号。ドリルと言ったら轟天号サンダーバードよりも早い。


 音楽はお馴染み、伊福部昭海底軍艦マーチや、その変形であるメインタイトル、挺身隊出動など名曲揃い。特にすごいのはM17(海底軍艦試運転3)、M24(海底軍艦出撃2)だ。本編、特撮、音楽が三位一体となって轟天号をカッコよく演出している。鳥肌が立つほどカッコいい。


 最初、ムウ帝国工作隊を名乗る男(平田昭彦)に対して上原謙が「気違いだ、貴様」と言うシーンで、思わず「その通りだ」と笑ってしまった。その後、彼が送ってきたフィルムを見た人々が「わしたちは正気なんだろうなあ」「全く馬鹿馬鹿しい悪戯だ」という反応。さらに緊急の国連会議でも、「議題があまりにも馬鹿げたもので、討議の対象にはならないという意見が圧倒的に多く、わずか10分で会議を終わり、これを黙殺することになりました」というから笑ってしまった。

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以下、ネタバレ含む感想。


 ムウ帝国と大日本帝国を比較すると、この映画のテーマが分かる気がする。例えば、

「神宮司、無駄な抵抗はやめよ。ムウ帝国に勝てるつもりか」
「無駄な抵抗はあなたのほうだ」
「ムウ帝国は必ず勝つ。世界を支配するのはムウ帝国じゃ。例え余は殺せてもムウ帝国の心臓は滅びぬ」
(中略)
「諦めて降伏せよ」
「そちらがあくまで降伏をせまる以上、我々は絶対に攻撃を中止せん。ただし平和な話し合いならばお受けしよう」
「無礼な」

一方、日本は天皇陛下が御決断なさって降伏した。降伏していなければ日本もムウのようになっていたという意味ではないだろうか。

愛国心とは

 高島忠夫の「日本は戦争放棄したんですよ、憲法でね」という、いかにも嫌らしい言い方が鼻につく。さらに上原謙が「日本は戦争放棄を宣言したんだ。新憲法でね」と言うのだが、神宮司が「誰がそうしたのです」と言い返す。もちろん上原謙は「天皇陛下だ」とか「国会だよ」とか「国民の総意だ」とは言わず、黙ってしまう。占領軍が制定した憲法だからだ。この点に関しては、明らかに神宮司大佐の考えのほうが正しい。「日本は戦争放棄した」というのなら、もし轟天号自衛隊に渡したとしても、ムウと戦争することはできまい。もしムウと戦うのは神宮司だから、と言うのなら、日本はアメリカに全て任せてしまって、独立国ではないということを表している。
 しかし、神宮司大佐は大きな間違いをしている。神宮司大佐は反乱に等しい軍規違反をした。上官の楠見少将(上原謙)はそれを見逃した。神宮司の反乱とは、おそらく降伏しなかったことだろう。承詔必謹とは正反対である。小野田さんは「日本は降伏していない。亡命政府は戦争を継続している」と信じて戦い続けた。一方、神宮司大佐はおそらく終戦を知って、それでも抗戦を続けた。彼は独断で無意味に戦争を続け、遂に轟天号を完成させた。彼は轟天号で連合国を攻撃し、第二次大東亜戦争に勝利し、大日本帝国を再興しようというのだ。これは荒唐無稽だろうか? ヒトラー第一次世界大戦のリベンジを行い、ドイツ帝国を再興しようと考えた。そして実行した。アメリカが恐れたのは、日本が第二次大東亜戦争を起こすことだった。歴史は、敗戦国がリベンジを起こすという法則を教えてくれる。しかし、彼のような考え方はやはり間違っているのだ。一人で勝手に戦争を始めようとしても、国際法的にはテロリストでしかないし、日本国民も天皇も望まない。
 思うに、神宮司大佐が脱いだ「古い鎧」は愛国心そのものではなく、間違った愛国心だったはずだ。「古い愛国心」ではなく、「右翼的妄動」を捨てたのだ。勝手な行動で日本が救えると思ったら大間違いだ。しかし愛国心そのものは否定していないと思われる。以下は、楠見少将と神宮司大佐の娘の会話だ。

「父はたった一人の子供を残してまで、行かなければならなかったのでしょうか」
「それが戦争だよ。国のためには、私情を捨てて命も投げ出す」
「国のため?」
「そうだ。愛国心だよ」
「アイコクシン?」
「今の若い者には理解できんだろうな、愛国心なんてね」

楠見は少し笑っている。若者に絶望しているのではなく、昔を嘲笑しているわけでもない。時代は変わった、という感じだ。そして楠見には神宮司のようなカッコよさはない。


 神宮司大佐はムウ帝国撃滅を決意した。その理由は二つあると思う。一つは、ムウ帝国が世界を植民地にしようとする姿が、自分たちに重なって見えたということ。もう一つは、ムウ帝国が日本をも攻撃してきたからである。真っ先に倒さねばならぬ敵がムウ帝国であった。自分の娘も拉致された。


 ラストシーンのムウ女帝が帝国に殉じるところは、感動を禁じ得ない。結局、真に愛国心を体現しているのは彼女ではないのか。全世界を植民地にするとは、彼女の決定ではないのかもしれない。立憲君主かもしれないし、部下たちの飾りだったかもしれないからだ。

疑問に答える

 まず最初に、ムウ女帝があっさり人質になるのは不思議だ。しかし、もしマンダに生贄を捧げる行為が、とても宗教的に大切で、女帝自ら行わねばならないとしたら、一応は説明がつく。
 また、挺身隊と戦う人たちが槍しか持っていないのも、そこまで攻めてこれるわけがないと油断していたからだろう。あそこを警備していたのは、ムウ人の不届き者が帝国の心臓を攻撃しないようにするためだと思われる。槍を持っていたのはむしろ民族衣装としての(日本刀のような)意味だったのだと思う。
 同様に、独特の衣装や、祭りと思われる歌・踊りに違和感を感じる人もいるだろうが、民族主義が強いムウだから不思議はない。
 ムウの人々がマンダ!を連呼するシーンを見て思ったのだが、マンダ→万蛇→万歳……考えすぎか。
 マンダは生物工学によって生まれた怪獣か、あるいは海底の神秘か。ムウの科学力を考えると、どちらか判断できない。神聖視されているから後者かもしれない。


 ムウが突然、全世界に宣戦布告してきたのは、落盤が理由である。ムウ帝国はこのままでは危険な状態であった。高度な科学を誇るムウが日本の土木技術者を拉致したのは、それまで落盤が一切なかった証拠だ。そのため、突然全世界を敵にしたのであった。もし平和的な話し合いを望むなら、世界はそれに応じたはずなのに。