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マタンゴ(★★★★)


予告編(実際は吸血しません。マタンゴは撮影後スタッフがおいしくいただきました)


おすすめ度★★★★(5段階)
一言紹介:極限状態でエゴ剥き出し、利己主義に陥る人間の滑稽な姿を見よ!キノコうめええ!
1963年、東宝製作。
監督:本多猪四郎特技監督円谷英二、音楽:別宮貞雄、脚本:木村武、原作:福島正実
出演:久保明水野久美佐原健二、土屋嘉男、小泉博、太刀川寛、八代美紀、天本英世
同時上映:「ハワイの若大将」(加山雄三


 ストーリー:道楽息子(娘)たちが7人、ヨット(クルーザー)で航海に出かけると、海の天気は分からぬもので、あっという間に大時化(しけ)に。マストは折れ、補助エンジンも故障し、落雷に遭い、ヨットは操作不能に陥った。数日が経ち、霧に包まれた島に辿り着く。そこは人間のいた形跡があるにもかかわらず、誰も居ない。食料を求めて島を探検すると、海岸に巨大な難破船があった。それは核実験における放射能などを調べる一種のスパイ船のようだが、食料も見つかった。船員たちの死体はなく、彼らはどこへ行ったのか? 航海日誌など状況証拠によると、彼らは放射能を浴びた麻薬のようなキノコ「マタンゴ」を食べて、どうかなってしまったらしい。この無人島という極限状態で、やがて7人は利己主義に陥り、人間不信になり、空腹からキノコに手を出そうとする者も出てくる。ある夜、土屋嘉男がこっそり食料庫に忍び込んでいると、そこに怪しいやつが現れた。やつはキノコか?人間か? 7人は無事に日本に帰ることが出来るのか? 衝撃の展開の末、衝撃のクライマックスへ。


 ホラー映画というよりも、一種の喜劇であるかもしれない。人間とはこれほどに愚かなのか。あまりの滑稽ぶりに笑いがこみ上げてくる。マタンゴは人間を襲うが、殺そうというのではない。彼らはキノコを食べさせて、自分たちの仲間にしようとしているだけなのだ。ある意味、可愛げがある。しかしよく考えてほしい。自分だけ悪人なのは嫌だからと、他人を悪の道に引きずり込もうとしているのは、マタンゴと同じなのではないか。「赤信号、皆で渡れば怖くない」というのは、マタンゴと同じである。そもそもマタンゴというキノコは麻薬をモチーフにしているという。しかし人間は、麻薬に限らず他人を悪の道に誘う。この映画はそんな愚かさや、人間の利己主義を批判しているのだ。
 人間が人間らしさを失ったら、禽獣と異なるところがない。本能を抑制する理性があって、初めて人間なのだ。そんな吉田松陰の考え方と共通しているところがある(本多監督の人柄も、松陰と似たところがある)。末法時代の21世紀だからこそ、この映画を見るべきだ。アマゾンのレビューで伯夷と叔斉を例に挙げている人がいるが、まさしく、「足利幕府につくか、朝廷につくか」というような選択で、キノコの天国、人間の地獄である。今の日本、いや世界も、人間の地獄になっていやしないか。


 脚本の木村武は「ラドン」「地球防衛軍」「ガス人間第一号」「世界大戦争」など引き出しの広い人だ。関沢新一が人間の善を描いたと割り切れば、木村武は人間の悪を描いたのだ。そして監督はいつも本多猪四郎だった。彼こそ本当にどんな映画も撮れる人だ(世界大戦争は違う人)。原作は福島正実で「怪獣総進撃 怪獣小説全集1」という本で読んだことがある。脚本の木村武より貢献度は上か。ちょっと細かい部分は覚えていないので何とも言えない。確か福島正実の原作では、遭難して孤独で気が違った男の作り話だという落ちだったはず。この映画ではそうではないんだけど、彼の語ったことがどこまで事実かというのは分からない。
 アメリカ人には、この映画は作れないんじゃないかと思う。多分、日本ぐらい湿気が多くないと、この話や映像は作れない。かといって東南アジアや南米の人だと、冬の乾燥を知らない。
 俳優は、水野久美の怪しい美しさ、この映画のために歯を一本抜いた佐原健二の怪しさ(実は3番目くらいにまともな役)、土屋嘉男のボンボンぶり、太刀川寛の気違いっぽさ、小泉博の仕切り屋、八代美紀のカマトト?などキャラが立ちすぎていて怖い。そのため、一番普通な久保明の役(主人公)が浮いている感じなのだ。みんな鬼気迫る演技だ。
 本多猪四郎監督の作品の中では、かなり珍しいタイプで、黒澤映画なら「羅生門」や「悪い奴ほどよく眠る」のような雰囲気と言えそうだ(メインが7人でも「七人の侍」とは全然違う。七人の侍よりキャラが立っている気がする)。特に、この話が主人公の語ったことで、どこまで彼の言うとおりか分からないという点で、「羅生門」に似たところがある。
 マタンゴの声は後にバルタン星人に使われた(多分)。しかし、バルタン星人よりずっと不気味だ。なにしろ彼らは元人間なのだから。
 見終わったらキノコが食べたくなることを保障する。いや見ている最中から「キノコ食べたいな」と思うはず。ただし、もし子供に見せたら、一生キノコが食べられなくなるかもしれない。幸い、私は平気だったが(もしかしたら、幼すぎてこの映画のメッセージが理解できなかったのかもしれない。内容も、自分が持った感想も、全然覚えていない。いや忘れているだけで、当時は心底恐怖したのかもしれないな)。
 この映画を友達と一緒に見るのはよしたほうがいい。「俺とお前は本当に友達か?」なんて疑い始めそうだから。


 日本で数年前、ホラー映画が流行したのは、確か「リング」からだったと思うが、あれはホラーというより謎解きだった。ただ驚かせるだけなら映画ではなくお化け屋敷にでも行けばいいので、ホラー映画に求められるのは物語、特に謎解きだろう。マタンゴは謎解きではないが、普通のホラー映画とは違っている。また、マタンゴの造形やラストシーンの衝撃は、「猿の惑星」にも匹敵する。どちらも放射能原水爆)を物語の根底に置いている。「猿の惑星」はマタンゴの5年後に公開された作品だ。その頃からSF映画の本場はアメリカへと移っていく。円谷英二は死に、本多猪四郎監督も「メカゴジラの逆襲」(円谷英二の死後5年の1975年に公開)が最後の監督作品となった。それ以後は黒澤映画の演出補佐(監督の右腕?)をした。「マタンゴ」では世界最先端の「オプチカル・プリンター」をアメリカから輸入している。日本映画黄金時代を十分に楽しめる名作だ。
 思ったのだが、映画「ノストラダムスの大予言」はストーリーのないマタンゴだ。雰囲気だけちょっと似ている。