人権擁護法案マガジン・ブログ版

人権擁護法案マガジンのブログ版です。人権擁護法案反対VIP総司令部まとめサイトはこちら http://zinkenvip.fc2web.com/

小室直樹の「痛快!憲法学」を読む 第6章

ジョン・ロックの「社会契約説」

 清教徒革命の頃、イギリスにジョン・ロックという思想家がいました。彼は医学も研究していたので、科学的思考ができました。彼は国家や社会がない自然状態というものを考えたのでした。歴史上、そのようなものが存在した可能性は低いと思うのですが、これはあくまでモデル(理論)であって、仮定の話なのです。自然状態では人間は自由で平等でした。この点、マルクス史観の原始共産制とよく似ている気がします。しかし、自由で平等であるが故に、人間同士で争い合い、腕力や統率力のある者が勝つ、弱肉強食の世界になってしまいます。そのため、全く平等な人々が契約を結んで国家を作った、というのが社会契約説です。後のアメリカはこの理論に近いとはいえ、全くこの通りに成立した国家など、ありえるはずがありません。もちろんこれはモデルです。特に日本は神武天皇が建国した国ですから、歴史においては社会契約説を受け入れることは100%ありえません。さて、ここで私の意見を一つ。

ロックの考えによれば、王が偉いのは神様に選ばれたからではありません。人民が契約によって国家を作ったときに、その権力を王様に預けただけにすぎないのです。だから、本来、国王とは人民を守るための存在と言ってもいい。(103P)

この部分は、以前書いた「私の憲法論」においては、「その権力を」以下の文章は国王と人民を入れ替えると正しくなる。つまり、「天皇がその権力を臣民に預けただけにすぎないのです。だから、本来、臣民とは天皇を守るための存在と言ってもいい」しかし、とりあえず社会契約説に従って話を進めましょう。
 国家は人民が社会契約を結んで作ったものなのですから、当然国民には主権があります。そして、国家を潰して新しい国家を作る権利もある。よって国家権力が暴走(独裁)を始め、国民を虐げた場合は、国民一人一人は「抵抗権」を行使することができます。さらに全ての国民による「抵抗権」の行使、「革命権」もあります。しかし、通常は武力行使などやっても秩序を乱す以外に何の効果もありませんので、抵抗権・革命権の行使は理論に留まるものです。もちろんナチスドイツのような独裁の例はあるので、革命権などは全くありえない話ではないのですが。

リヴァイアサン」のホッブス

 リヴァイアサンを書き、国家権力を無敵の怪獣に例えたトマス・ホッブスは、実はロックより先に社会契約説を提唱していました。ホッブスは自然状態について、「万人の万人に対する闘争」つまり食べ物の取り合いで争いばかりが起きると考えました。そこで秩序を作るために、人々は社会契約を結んで国家を作った。強力な国家権力により、秩序を乱す者は罰せられるというわけです。彼は万人の万人に対する闘争をビヒーモスという怪獣に例え、これを退治するためには怪獣王リヴァイアサンが必要だというのです。ここでほとんど関係のないゴジラキングギドラの写真が、何と見開きで出てきます! 以下は違う写真ですが。ちなみに小室直樹の本にはよく「リヴァイアサンゴジラ以上の怪獣である」みたいな文が出てきます。ゴジラファンなのでしょうか?

東宝映画「ゴジラvsキングギドラ」より、日本をキングギドラから守るためには、ゴジラに戦ってもらうしかない!?

しかし、どんな理由であるにせよ、ホッブスの説は王権を弁護するものであり、革命を否定する思想になりかねません。(108P)

ホッブスは、無秩序(ビヒーモス)を退治するためには国家権力(リヴァイアサン)がとてつもなく強力でなければならないと考えました。ここには国家権力を縛るという自由主義は出てきません。これに対してロックは、人間は生産活動をすると考えました。ホッブスの言うように、限られた食べ物や土地を奪い合うのではなく、生産によって食べ物もお金も増える、と。すると「万人の万人に対する闘争」は起きず、秩序を乱そうとする者は少数ということになります。全員が犯罪者だったホッブスの理論とは大きく異なります。

さらに彼(ロック)は私有財産の正当性をも基礎づけました。個人の私有財産というのは、労働の結果、新たに生み出された資源です。誰かから奪ったものでもなければ、盗んだものでもない。その人の持っている私有財産は労働に対する正当な報酬なのだから、それをどれだけ貯めようと、どんな使い方をしようと、誰にも文句を言われる筋合いはない。(110P)

そして社会契約説で最も重要なことは、自然状態で人間が持っていた生命、自由、財産の権利を国家権力が不当に奪うことは許されないというものです。

アメリカ独立戦争アメリカ革命)

 1765年ごろ、イギリスの議会はアメリカにおける「印紙税法」を可決しました。新聞やら何やらに印紙を貼ることを義務づけたのです。しかし、この時アメリカからは一人の議員も出ていませんでした。

イギリスの憲法には、「代表なくして課税なし」という大原則があります。前にも述べたように、ヨーロッパの議会は税金問題を解決するために作られました。(113P)

ロックの思想においても、財産の権利は国民が持っており、勝手に税金を課してはならない。そこでアメリカの人たち(当時はアメリカ国はまだない)は抵抗権を行使し、暴動を起こしました。しかしイギリス政府、議会はアメリカの人々の考え方がよく理解できず、次々と新しい税金を作りました。その一つがお茶であり、ボストン茶会事件に発展していきました。いよいよ人々は団結し、抵抗権を超えた革命権の行使へと向かっていったのです。こうしてロックに思想によって、あたかも社会契約で作られたような新国家・アメリカ合衆国が生まれました*1



東宝映画「怪獣大戦争」(監督:本多猪四郎)より、「モンスターゼロを倒すためワンとツーをお借りしたい」

*1:アメリカで銃が規制されないのは、抵抗権・革命権の理論に基づく。