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ガス人間第一号(★★★★)


予告編はあまりいい出来ではない。


おすすめ度★★★★(5段階)
一言紹介:タイトルからは想像もつかない恋愛劇。土屋嘉男の演技と八千草薫の日本舞踊に酔え!
1960年、東宝製作。
監督:本多猪四郎特技監督円谷英二、音楽:宮内国郎
出演:土屋嘉男、八千草薫三橋達也、佐多契子、左卜全
 ストーリー:謎の連続銀行強盗事件。鍵がかかったままの金庫室から犯人はどうやって脱走したのか。犯人は次の犯行を予告するが、同時刻に別の銀行を襲撃。しかし、遂に逮捕された。一方、年に一度の新作発表会も開けないほどすっかり落ちぶれた日本舞踊の家元・藤千代が、最近やけに金回りがよく、発表会に向け動いている。警察は藤千代の家を捜索、奪われたお札を発見した(番号が一致した)。藤千代は参考人として留置所に入れられてしまう。すると、警察に真犯人を名乗る男が現れた。彼はどのように金庫に侵入し、鍵のかかったまま脱走できたのか、実演して見せるという。そして遂に正体が判明する、そう彼はガス人間だったのだ。藤千代の発表会は開かれるのか?
 ミステリー(推理)から始まる究極の恋愛劇、究極の悲劇。インタビューにおいて本多猪四郎監督は、この結末こそ究極の愛であると語った。この映画、ゴジラほどではないにせよ、本多監督の三本指に入るくらい名作。人間と、かつて人間であった非人間。舞踊の家元と、ただの図書館職員。ロミオとジュリエットどころではない!
 ここでは特撮はガス人間を表現するに留まり、言ってみれば演出の特殊効果に過ぎず、この映画を特撮映画に分類するのは多少無理がある。音楽はウルトラQウルトラマン宮内国郎だが、恋愛劇であるため、そこはちゃんとしている。そして重要なのが日本舞踊だ。全部、八千草薫本人が踊っている。音楽はその道のプロが演奏している。美しい舞踊を見るだけでも、この映画の価値があるというもの。左卜全も好演。
 そして土屋嘉男だ。この映画こそ彼の代表作と言ってもいい(本当は黒澤組だけど)。人間にして人間にあらず、精神正常にして気違いとでも言おうか。その怪しさ、他者を省みない恋に対する異常なまでのひたむきさ、そんなところは、もう土屋さんでなければ絶対に演じられない。この人、顔が素で怖いから。でも本人は至っていい人なんですけどね、映画の中では怖い。七人の侍でも、女房を奪われた怨みが心で燃えるというより溶けていて、顔が怖かった。
 ラストシーンは何とも言えない悲しさに包まれている。何人もの人間を殺したとはいえ、ガス人間水野(土屋嘉男)もまた、被害者であるはずなのに。そこにはゴジラのラストシーンに通じるものがある。絶対的な悪ではないのだ。藤千代の新作「情鬼」は、きっとガス人間水野のことを表現した舞踊だったのだろう。劇中でも、現実でも、この映画のクライマックスでしか演じられたことがないはず。幻の日本舞踊作品だ。そしておそらく世界一たくさんの人が見た日本舞踊ではないだろうか。
 タイトルはガス人間第一号だが、それが逆に第二号の存在を否定している気がする。彼のような悲しい存在はもう十分だ。「ガス人間第一号の誕生ですよ」そう吐き捨てる水野。この台詞が出た瞬間、このタイトルでもよかったかな、と思う。
 DVDのコメンタリーは八千草薫日舞の猛特訓をしたという話が聞ける。50年後には彼女の代表作はこの映画になっているだろう。間違いない。